聖なる不死者の視点
このページは、大元の小説サイトに載せた番外SSの改変verになります。
聖なる不死者の視点
こんにちは、レクチェです。
エリオットさんが婚約してから二ヶ月くらいだと思います。今日はルフィーナが彼に呼ばれたので一緒に着いて来ました。多分何かと知識豊富な彼女に頼み事でもあるのだろう、と思っていましたが、何故でしょう。
「ロリ巨乳だなんて論外よ!!」
確かに最初の辺りでは真面目な話をしていたはずなのに、エリオットさんの婚約相手の話題を合間に挟んだらこんな会話になっています。
ルフィーナは普段聞かないような力強い口調でエリオットさんに反論しているのです。
それに対してエリオットさんも言い返しました。
「俺が言いたいのはそこじゃないっつーに! あくまで、あんなクリス以上に成長が期待出来ない種族合法ロリぺったんが趣味じゃないってだけで!!」
「いいじゃないのロリぺったん! もしあの顔のまま胸が大きかったらと思うとあたしならゾッとするわね!」
「いや、でもまぁロリ巨乳というカテゴリはさておき、大は小を兼ねるじゃないか!」
「いいえ! ロリ巨乳はあくまで二次元のみで許される物! 現実で十才の女の子がFカップだったら結構違和感がするものよ!」
ルフィーナは元々子どもに対して執着が強いのと、何か変な方向でこだわりがあるみたいで、エリオットさんの反論を完全否定するのです。
エリオットさんもエリオットさんで受け流せばいいものを、彼の場合は胸に対してこだわりがあるのか引く様子が見受けられません。
二人は本題そっちのけで部屋中に怒声を響かせていて、私としては出された紅茶を啜る以外に出来ることがなくて困っていました。
「世間でどんなにロリ巨乳を謳っていようが、所詮アレは偽者のロリ! 目を覚ましなさい!!」
「いやだから俺はロリータ趣味は無いからそこはどうでも……」
「エリ君には種を残そうと言う本能が欠けているんじゃなくて!? 男が若さに惹かれないでどうするの!」
息巻くルフィーナに対し、エリオットさんもそろそろ疲れてきたようです。
そろそろ私も口を挟んでもいいかなぁ、と助け舟を出してみます。
「ルフィーナはエリオットさんに幼女趣味の変態おじさんになって欲しいの?」
「ちょっ……」
「違うわよ、この子があんなに可愛い子に胸が小さいだの幼いだのと不満を漏らすから贅沢言ってんじゃないって思うの!」
確かに将来のお嫁さんに対して今からぐちぐち言っているようでは情けないかも知れません。昔彼の先生をやっていたルフィーナとしては矯正してあげたいのでしょう。
「あぁもう羨ましい、あたしと交代しなさいよもう……っ!」
前言撤回です。ただの嫉妬だったようです。
エリオットさんは呆れ返って気の抜けた表情をしていて、多分私も同じような顔をしているんじゃないかと思います。
未だに私にはよく分からないルフィーナの趣味ですが、一体何歳までが彼女のストライクゾーンなのでしょうか。あと何か女の子でもいけなくはない感じです。気になるけれど聞いたら大変そうなのでそれは心に仕舞っておくことにしました。
言い争うだけ言い争った二人は、話が収束したかと思うとパッと本題に戻して普通に話し始めます。掻い摘むと、ルフィーナに指揮して欲しい研究があるみたいでした。となると、今後はお城に寄る機会も多くなりそうです。
「さて、一通り用事も済んだし……帰る前にどこか行きたいところあるかしら?」
身長もあり、スラッとしたルフィーナが城内を歩くと自然と道が開けるので、私はその後ろを慌てて着いていきます。
問いかけられて行きたいところはいくつか浮かんだけれど、どれも行こうとまでは思えません。
ロリぺったんをあんなに推していたにも関わらず、彼女自身の服装はと言うとウエストがコルセットで締め付けられている分胸を強調するようなもので、さっきまでエリオットさんの視線が幾度と無く向けられていた胸に手を当ててルフィーナは言いました。
「無いならちょっと南下してフィルに寄ってから里に戻るけど、いい?」
「うん、何かあるの?」
「本借りてくるだけよ」
そう言われてあの大きな図書館を思い出します。私も何か面白そうな本があったら一緒に借りようかな、なんて考えながら、私は彼女と共に馬車に揺られました。
「ここってこんな本まであるんだぁ……」
渋めの赤の絨毯を開いた本の背後に映しながら、私は本の内容に思わず集中してしまいます。
図書館の外観がとても重厚なので何となく難しい本ばかりあるイメージでしたが、結構、アレな、物語もあるのです。
「古書と違ってこのテの物のほうがそりゃ需要あるからねぇ」
「はぁぁぁ」
確かにアートとエロスは遠い昔から切っても切れない関係だとは思います。しかし、絵画や劇で見るのとは違って文章で読むと何だか卑猥さが増すのは気のせいでしょうか。
「まぁここはちょっと新作がどんな物か見たかっただけ」
ルフィーナが手に取っていた本を戻すので私も慌てて戻し、彼女に着いて行くとその白い手が今度手にしたのは水文学のコーナーの蔵書でした。
大樹とその泉と恵みの雨、そして人間達には存在も把握されていない、大陸を取り巻く大蛇。この世界において一番解明が難しいであろうその分野を突き詰めるのがまず第一歩であるという考えは、アレを見たエリオットさんならば容易に辿り着くものであり、それを実行する一番の問題点である労力を集うことすらも彼にとってはそこまで難しいものでは無いのです。
それこそが……万能では無い創造主が求めるものだったのでしょう。
本棚を順に軽く目を通しながら、ルフィーナは数冊選んでそれを借りました。
「人のこと何でも出来るみたいに勘違いして無理難題押し付けてくるのやめて欲しいわホント」
「頼りにされてるんだねっ」
「にしたって専門外を投げて来ないで欲しいんだけど」
でもルフィーナはエリオットさんから頼まれた時、専門外だなどと言わずにただ『仕方ないわね』と受けていたはずです。
それこそが彼女の気持ちのあるところなのだと私は思います。
図書館を出てからは何だか怪しげな本屋さんにも寄った後、帰りの馬車を借りる前に早めの夕食を済ませました。
その街行く人並みで、一瞬だけあの人に似た人影を見つけ、私の足は止まってしまいます。
「ん?」
以前はこちらの足が止まったことにも気付かずにはぐれたりしたルフィーナですが、今日は私のその所作に気付いたようで振り返ってその赤い瞳を私に向けて首を傾げました。
「……何でも無いよっ」
この場所に居るはずの無いあの人ですから、気のせいです。彼は今頃きっといつもの様に優しい笑顔で接客しているはずです。
自分のことばかりを考えていた、記憶が無い頃の思い出が胸で軋むけど、今の私が飛び込めるのはあの人の腕の中ではありません。
トッと軽く地を蹴って、振り返ってくれたルフィーナの手を握りました。きょとんとした彼女は、すぐに切れ長の瞳を更に細くし、にっこり笑って言います。
「そこは腕を組んで来なさいな」
「あ、うん……ってええっ!?」
男性顔負けの手際の良さで、私の手を外し自身の腕に絡ませたルフィーナはとても楽しそうでした。流石にこんな人通りのあるところでこの密着は恥ずかしいなと思いましたが、彼女が楽しそうなので解くに解けません。
黄昏時、薄明の空はしばらくそんな私達を照らした後、ゆっくりと暮れていきました。
【番外編 ~聖なる不死者の視点~ 完】